ソビエト連邦が復活する可能性はあるのか
最近のロシア政府やプーチン大統領の政策について語られる時「ソ連復活」という言葉が使われることが多い。半ばレッテル張りのようなもので日本の政策が「戦前回帰」という言われ方をすることと似ているように感じることもある。
では実際ソビエト連邦復活の可能性はあるのだろうか。
まず昨今のロシアの事情、さらに周辺国の事情を鑑みたときにかつてのソ連のような共同体や連邦国家に戻りたいと考えている国は皆無に近いという事である。
ソ連と言ってもロシアだけで構成されていたわけではなく、ウクライナ、カザフスタン、ジョージア、ウズベキスタン、ベラルーシ、バルト三国など様々な国家の共同体であった。
現在かつてソ連だった国々はそれぞれ独自の道を歩み始めており、それぞれ国民は自分たちの将来を見つけ始めている。
現状ソ連に戻りたいと思っている国や戻る必要性がある国は少ない。自分たちはかつて大国の一員だったと語る小国の人々は存在するが、ではかといって今からロシアと合併したいとまで考えている人は少ない。
たとえばカザフスタンなどは資源大国として頭角を現し始めており、これから中央アジアの大国になろうとしている。ソ連時代はそれほど存在感のあった国ではないが、現代においてこれから国際的なプレゼンスを高めていくポテンシャルは非常に高い。
彼らがその可能性を封印し、ロシアの一員になることを望むとは思えない。
またウクライナも現在ロシアに対して非常に敵対心を抱いており、ウクライナとロシア仲はもはや修復できない領域に差し掛かっている。現在ウクライナはNATO加入に舵を切ろうとしており、西欧化を求める国民も多い。
バルト三国もロシアに対しては敵対的であり、もうソビエト連邦など二度とごめんだと考えている人は非常に多い。
更にかつての衛星国である国々も西欧の一員として歩み始めようとしており、今更ロシアと組むことにメリットを見出す人々は少ないだろう。
東欧の人々は漠然とした西欧に対するコンプレックスや憧れがあり、むしろ「脱露」傾向にある。彼らを慕う国はベラルーシぐらいしか存在しないのが現状だ。
そのほかの国々はロシアの強大化にそれほど寄与しない小国が大半であり、彼らともう一度名前だけはソビエト連邦となったところで実態はほとんどロシアが中心の国で劇的な変化はないだろう。
むしろロシアの場合国内の共和国が独立するかもしれないという問題を抱えており、領土的には拡大というよりも縮小の傾向にあるのではないか。
更にロシア自体が現在かつての新興国としての地位を失っておりBRICsと言われたのは今や昔のこと。クリミア併合においてかつての大国的なやり方を試みた結果、経済制裁を受け成長が鈍化してしまった。世界は「ソ連恐怖症」としてロシアの政策に敏感になっている部分がある。世界唯一の超大国であるアメリカは特にそのことに関して敏感であり、ロシアが再び力を持つことを恐れているため早めに対策を取るだろう。
ロシア自体が魅力的な新時代の資本主義国家や西側国家の一員として成長し大国になっていれば、かつてのソ連構成国もロシアを見直していたかもしれない。自主的なロシアへの統合は残念ながら現在のロシアを考えたときに起こり得ない事だろう。今客観的に見てロシアは魅力と可能性にあふれた国ではなくなっている。
しかしそれはあくまで「自主的なソ連への回帰」だと想定した場合であり、必ずしもソ連復活の可能性が完全に途絶えていることを意味しない。彼らロシア人は必ずしも民主主義的な手法を最優先に考えている民族ではなく、時として軍事力た大国外交に打って出ることも厭わない国である。
そして彼らには漠然とした大国願望のようなものがあり、「強いロシア」への憧れも存在する。むしろクリミア併合を成功させたことでプーチンは名大統領と絶賛されている。それほどにロシア人の領土への関心は高く、日本との関係でも絶対に北方領土を返還しようとしないのを見れば彼らの領土に対する執着心が凄まじいことが理解できる。
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彼らロシア人は裕福な事や華やかなことにそれほど関心がなく、資本主義的な生活は元から向いていないのである。帝政ロシア時代も、ソ連時代も一般の民衆は裕福ではなく、現在も裕福ではない。ロシア的な生活や質素な暮らしになじんでおり、それよりは国威発揚や領土が安全に守られているという事を重視する国民性がある。
領土を返還し周辺諸国との関係を改善し、西側諸国と協調したほうが本来のロシアのポテンシャルを引きだせて国民は裕福になるのではないかという考え方はあくまで我々から見たときの考え方であり、そういった考え方はロシア人的には野暮なのである。
彼らロシア人は大国ロシアの一員であることに喜びを覚える。西欧の人々や西側の人々、いや世界のどこの人々と比べても彼らの考え方は独自であり異なる。
個人的にはそういったロシア人の文化が好きであり、彼らなりの幸せを尊重したい。
つまり貧しくても彼らは安全に保障された大きな大国であることに価値観を見出し、その為ならば評判や実質的な裕福さなどは度外視することもあり得るという事である。
何かのきっかけがあれば彼らは「大祖国」のために再び戦いを選ぶことをいとわないだろう。