負け組ゆとりの語り場

社会に取り残された男が日々を語る

今のロシアにアメリカに対抗する力は残されていない

アメリカ合衆国とソビエト連邦が超大国として世界の覇権を争ったのはもはや30年前の事である。ソビエト連邦は1979年から始まるアフガニスタン侵攻を切っ掛けに衰退の一途を辿り結局1991年に世界初の社会主義体制は崩壊することになる。

 

その後成立したロシア連邦はエリツィン政権時代にかつての大国としての矜持は鳴りを潜めることになり、プーチン政権発足までロシア人は「強いロシア」を待たなければならなくなる。

 

この後に登場したウラジーミル・プーチンは21世紀における傑出した政治家の一人であり資源を武器にした外交政策により再びロシアを躍進させ、ひと時はBRICsの一員として次世代をリードする大国にまで押し上げた。

プーチン

ここまで見れば順調なのだがプーチンはこの後最大の失策を行うことになる。

「クリミア併合」と言われる歴史的な出来事はその後のロシアの命運を大きく左右することになる。

一見すると無血で領土を取り戻すことに成功し、実際プーチン政権の支持率も急上昇したのだがこのことがロシアを「次世代大国レース」からの脱落をもたらす契機となる。

すなわちその後に課された経済制裁がロシア経済を大きく落ち込ませ、訪れるはずだった輝かしい未来への扉を閉ざすことになってしまった。

 

例えば2018年にロシアでサッカーのFIFAワールドカップが開催されることをどれだけの人が認識しているだろうか。

ワールドカップがもうすぐ始まるという意識すら希薄であり、実際ロシア側もこのイベントを大きく盛り上げるムードを形成できていない。

世界最大のスポーツイベントを控えているにもかかわらず閑散としているのがロシアの実情なのだ。

ロシアでワールドカップが開催されると決まったときは、自分自身躍進したロシアでサッカーの世界大会が開かれることに期待していたが現状はその未来予想図とはかけ離れている。ロシア経済は落ち込み一人あたりのGDPでは世界70位前後の貧しい国になっており大国とは言えない。

 

またそもそも米ソ冷戦においてもソ連がアメリカに対抗できていたのは1970年代までであり、その後は実質的なワンサイドゲームが展開される。ロシアがアメリカに対抗できていた最大の理由はやはり世界で2番目に核兵器の配備に成功できたという事であり、核大国やミサイル大国としてその差を埋めていたのが実態となる。

アメリカが異常な力を兼ね備えすぎていると言えばそれまでなのだが、正攻法ではやはりどの国も米国には対抗できない。

 

更にロシア人の気質として彼らは必ずしも裕福な生活を求めておらず、最優先するものは国防や安全という意識が強い。彼らが頑なに末端の領土にこだわり続けるのは何も侵略的な意識から来るものではなく、我々が想像することができない国家保安意識に拠るところが大きい。

端的に言えば歴史的経験も含めて彼らは非常に不安を感じやすい人々であり、侵略された歴史が多いがゆえに領土の安全を何よりも大事にする。それは時として裕福な経済発展よりも重要な物であり、更にロシア人は貧しい生活に慣れている側面がある。どんな苦境も耐え忍ぶ習慣があり、厳しい時はウォッカと共に生きてきた。

「クリミアを併合せずにいれば今頃裕福で楽しい生活がおくれるのではないか」と考えるのは西側的な価値観であり、彼らはロシア本土の防波堤が一つ増えたことに安心することを優先する。

 

例えば日本人からすると北方領土や竹島が返還されたところで生活がそれほど裕福になるわけでもなく、自尊心が満たされるだけでしかないという事を理解しているためそれほど返還要求運動は活発化しない。

現代において一つの領土や拠点がもたらす地政学的な意味合いは希薄になっており、尖閣諸島が中国に領有されたところで実感として大きな変化は得られない。

いや、実際には非常に大きな意味を持つのだが民間人が得られる時間としては小さいというのが実態だ。

しかしロシア人はその意味合いを非常に重要視する。

北方領土が帰ってきたところで何か変わるわけでもないと軽く考える日本人と、一つの領土の意味合いを大きく重視するロシア人とでは認識の大きなギャップが存在する。

つまりプーチン政権のクリミア併合を失策と考えるのは西側の発想であり、東側、特にロシアの発想では歴史的大偉業なのである。

ロシア

ロシア連邦は資本主義を舞台にした経済競争ではもはやアメリカに対抗する手段を失ってしまった。

次世代を新興国としてリードする可能性があったがそれをふいにしてしまったロシアは、次なるゲームで世界に対抗しなければならない。

それが冷戦時代のような覇権主義やイデオロギー闘争なのか、それとも新しい手段なのかはまだ現状において判断することはできない 。

おそらく核兵器を廃絶することには積極的にならないだろう、これか彼らにとって最大のカードだからだ。核さえあればあらゆる格差を逆転することができるというのは既に北朝鮮の外交が示している。世界的に認められた核保有国という既得利権を手放す理由は無い。

 

しかし今後の世界情勢は核や軍事力による力が全てを左右する時代ではなくなるだろう。

その時にロシアが武器にできる物は現状見当たらないというのが現実であり、アメリカに対抗する力は残されていない。中国にように資本主義の新たな寵児になることはできなかったロシアがこれから何を目指すのかは見えてこない。

 

新興国が続々と登場する21世紀においてエネルギー問題は非常に重要な要素となる。

その時に有利になる国は資源や領土を持つ国か、技術革新を起こせる国のどちらかだ。ロシアはその貴重なカードを資本主義に応用するタイミングを失ってしまった。

仮にプーチン政権以降、国際協調派が台頭しその豊富な資源を応用することができればロシアは現状を打開できるだろう。しかし現実的にロシアは保護主義に走り、プーチン政権の支持率はロシアの歴史上に類を見ない領域に差し掛かっている。

 

どのような政治家が自国や国民に真の利益をもたらすのか、その判断の時には聞こえの良い言葉を巧みに操る勢力が選択されやすい。

またロシア人の価値観としても即自的な富よりも重要なことがあるという考えの方が根強い。

次世代の新興国として台頭するタイミングを失ったロシアは次にどのような行動を取るだろうか。彼らが冷戦時代にアメリカと渡り合っていた甘美な日々に思いを寄せることがあるとするならば、我々が現代には起こり得ないと思っている光景を目にすることになるかもしれない。

現代ロシアの経済構造 [ 塩原俊彦 ]