負け組ゆとりの語り場

社会に取り残された男が日々を語る

生きてる間に朝鮮半島統一を見ることはできるか

東西冷戦の遺物の象徴ともいうべきなのが朝鮮半島であり、事実上世界最後とも言える分断国家と社会主義国家が存在する。

世界的に見れば本当に珍しい国家形態がすぐそばにあり、それゆえに日本の報道番組でも視聴率が取れるからなのか北朝鮮関連の話題が多い。

 

そんな朝鮮半島が統一されるムードになりかけたのは冷戦終結の前後の時期と、当時の韓国の大統領だった金大中が北朝鮮を訪問し南北共同宣言をした時だろう。

 

冷戦終結の時期について調べていると東西ドイツが統一したり、ソ連が崩壊したりEUが発足したりと新しい世界に向かっていくムードを感じることができる。

しかし自分は東西ドイツ統一とソ連崩壊についてはリアルタイムで経験しておらず、ソ連が存在した冷戦の時代を体験して見たかったという憧れもある。むしろ90年代の記憶すらほとんどない世代にとって20世紀の激動は眩く映る。

世の中が激動の時代に入り新しい世界に向かっていく昂揚感、不安と期待のようなものを味わってみたいというのは、停滞した現代に生きる現代人として自然な感覚だろう。

 

そういう意味で現代人に残されたサイドの"ビッグイベント"が南北朝鮮半島の統一だと言えるかもしれない。

何か世界史に残るような大きな出来事があるとすれば後はもう朝鮮半島統一ぐらいしか、20世紀的な激動は残されていない。現実的には希望や理想は実現せず世界が冷戦終結後良い方向に向かって行ったとは言いにくいが、何かしらの大きな動きがある時の雰囲気を感じてみたいという人は多いのではないか。

東西ドイツの統一とソ連崩壊、そしてそこからEU発足も含め90年代は様々な出来事が刺激的に続いていく。ソ連が存在する時代を体験できなかった世代にとってまさにその激動の時代は憧れの対象だ。

仮に朝鮮半島が統一に向かうのであればその時代の昂揚感に匹敵する可能性はある。

 

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ただ北朝鮮という国は滅びそうでしぶとく滅びない国だ。

冷戦の衝撃ですら崩れなかった分断体制は余程の事が無い限りもう揺るがないだろう。

韓国の反北朝鮮傾向がある人々は「金大中が北朝鮮を延命させた」と悪名高く評価しているようだが、今は中国が北朝鮮を延命させている状況になっている。

むしろ日に日に北朝鮮の体制は強固になっていき、もはや既成事実化している。

 

社会主義の優等生とさえ言われた東ドイツとの統一ですら、未だに格差があり「連帯税」をドイツ国民は支払わされている。サッカーのブンデスリーガでも東ドイツのクラブはほとんど見当たらず、西ドイツに主要産業が集中している。

脱北者の中には「統一後北朝鮮が韓国の水準にかろうじて並ぶには最低でも50年かかる」と語る人もおり、もはや韓国国内でも統一に夢を見ている人は少なくなってきている。

 

最近ピョンチャンオリンピックで統一半島旗の問題がニュースをにぎわせているが、韓国国内で統一に夢を見ている人は韓国の現大統領文在寅のような夢見がちな理想家に限られている。

2000年代の前半ぐらいまでは「同じ民族が悲劇的に分断されてしまったのでもう一度統一しなければならない」というムードがあった。有名な韓国映画に「シュリ」という作品があるが、これは1999年の作品だ。南北共同宣言の時に金大中と金正日が同じ冷麺を食べた時統一しそうな気配を感じたという韓国人もいるが、現実的にはその頃からもう20年が過ぎようとしている。

 

映画『シュリ』のタイトルは朝鮮半島の川に生きる魚の名前から来ており、「元々は同じ川を流れていた」というニュアンスの台詞が語られる内容になっている。この映画自体は感動的な作りなのだが、良くも悪くも分断や統一という言葉にセンチメンタルになれる時期はもう過ぎ去っているのだろう。

シュリ /カン・ジェギュ(監督、脚本),ハン・ソッキュ,キム・ユンジン,チェ・ミンシク,ソン・ガンホ,ユン・ジュサン,パク・ウンスク 【韓国映画】

 

2000年の前後という意味ではシドニー五輪の時に南北共同チームで出場したこともあるが、客観的に見ていると今の韓国にはその頃のようなムードは感じられず現実的な人が増えた印象を受ける。

おそらく今の韓国で統一に憧れている人は、その頃の雰囲気を懐かしむ人か憧れている人に限られるのではないか。左派系の人々が夢見がちな理想主義者になる傾向はどの国でも共通しており、それは韓国でも変わらない。

「南北を統一すれば日本や中国を追い越せる大国になれる」と考えている人は愛国心や民族感情に芽生えたての韓国の中学生ぐらいだ。

 

そんな現実的な時代の中で、無理に統一をシミュレーションするならば軍事的な衝突によって北朝鮮の体制が崩壊することが大前提となる。

現状で北朝鮮が内部から崩壊するというのは考えにくく、金正恩とトランプ大統領の綱渡りのようなゲームがどう動くかにかかっている。

仮にトランプが本当に北朝鮮を攻撃するならば事は一気に動くことになるかもしれない。更に中国も国境沿いに難民キャンプを建設する動きを見せており、必ずしも北朝鮮の体制を堅持させることにこだわっていないというメッセージを発信している。

考えすぎた見方かもしれないが、崩壊後の北朝鮮を米中で分割統治する野心が無いとは言い切れない。

 

韓国としては建国以来朝鮮半島北部も自国の領土であり、大韓民国が朝鮮半島に存在する唯一の正統な国家と主張しているので領有権は韓国に移る可能性が高い。

しかし前述のように莫大な統一予算がかかるため韓国単独でその負担に耐えきれるとは考えにくい。北朝鮮は美人が多いとも言われているので、韓流アイドルに美人メンバーが増えるぐらいしかメリットは無いだろう。

 

北朝鮮が新たな国家として単独でスタートすることも考えられる。

どちらかというと東西ドイツの統一や南ベトナムと北ベトナムの例よりもチェコスロバキアがチェコとスロバキアに分かれたような事を想定する方が自然なのではないか。

元々朝鮮半島の歴史自体、複数の国が存在していた時代の方が長いわけであり必ずしも李氏朝鮮や世宗大王の時代のような形にこだわる必要はないように思える。

百済、新羅、高句麗のように違う国として併存するほうが統一に伴う諸問題を回避できる可能性は高いはずだ。

北朝鮮崩壊後に一番あり得そうなのは、資本主義を取り入れ民主主義化した北朝鮮が国名を変えて存続することのように思える。もう70年も別の分断されれば完全に別の国だろう。平均身長は10cm違い、言葉も同じ朝鮮語のように思えて大きく異なるのが現実である。

 

また脱北者も朝鮮労働党の体制から逃れてきただけで、今も故郷の出身地に愛着がある人が多いと聞く。更に同じ韓国国内だけでも地域によって対立があり、ここに旧北朝鮮地域が加わることはそう簡単なものではない。

つまり北朝鮮人も故郷としては北朝鮮に愛着があり、韓国人も北部に対して差別的な感情があるので「一つの半島」に夢を見る人は実はどちらにもそれほど多くは無いのが現実なのだろう。

おそらく日本が統治したときの朝鮮以上に、今の韓国がこれから北朝鮮を統治することは難しい。一見すると同じ朝鮮民族だから共存は可能なように見えるが、同じだからこそわずかな違いに目が行きやすいという問題もある。

日本の中ですら韓国民団と朝鮮総連が対立しているというのに、もう今更国家として同じ路線に歩むことは困難だ。

統一朝鮮

仮にそのような新しい国家が発足したとき、様々な資本が流入しアジア最後の未開拓地が忽然と出現することを意味する。

ミャンマーがアジア最後の秘境だと表現されることもあるが、実は崩壊後の北朝鮮がアジアにおいて資本主義が発達する地域になるのではないか。

そうなった時周辺国の思惑が絡み合い、第一次世界大戦前夜に火薬庫と呼ばれていたバルカン半島のようになっていくというストーリーも考えられる。

中国が本格的に進出し影響力を高めていくならば、アメリカも積極的にプレゼンスを発揮しにかかるかもしれない。ごく少数の難民問題を除けば日本としては対岸の出来事になるのか、それとも極東地域の経済開発を求めてロシアが絡んで来るのか。

 

金大中の南北共同宣言のときの演説の映像を見たことがあるが、その時「日本、韓国、北朝鮮、中国からシルクロードに続く道ができる」というようなことを語っていた。シベリア鉄道を使えば韓国から陸路でヨーロッパにまで行けるようになると言えば聞こえは良く夢があるように聞こえる。

 

しかし金大中が現代のシルクロードに夢を見た2000年の頃と今では情勢が異なる。

現実的に考えれば問題が増えるだけで、北朝鮮が緩衝地帯になっている今の方がよほど平和だろう。

 

ピョンチャン五輪における統一半島旗の問題によって再び南北朝鮮問題が騒がれる機会が多くなっているが、どうも2000年前後の頃のような華々しい未来を思い描く雰囲気のようには感じられない。

やや古典的な理想像に夢を見て追い求めているようにも見えるし、韓国国内でも一部の人々が意図的にプロパガンダのように主張しているように見える時がある。

中には文在寅大統領がノーベル賞を狙っているだけという冷ややかな見方もあり、非現実的な夢と理想を追い求めているようにさえ映る。

このオリンピックが終わった時、韓国の人々はこの一時的な熱狂をどう振り返ることになるだろうか。

二つのコリア 国際政治の中の朝鮮半島 /ドンオーバードーファー(著者),菱木一美(訳者)