負け組ゆとりの語り場

社会に取り残された男が日々を語る

ベトナムで日本語教育が始まったことで日本人にどういった影響があるか

最近東南アジアのベトナムで試験的に日本語の教育が導入され始めており、高校教育に限らず初等教育の段階でも取り入れられている状況になっている。

東南アジアの国が小学校で日本語を教えることはこれが初の出来事になる。

依然として日本は経済大国のひとつであり、東南アジア諸国にとっても日本語は価値のある言語だと考えられているようだ。

 

現在アジアで最も影響力のある言語と言えば中国語と英語だが、ベトナムがこの状況で日本語も重視するというのは非常に国際感覚に秀でた決断だと言えるかもしれない。

確かに日本自体右肩下がりの傾向にあるが、ベトナムの歴史を考えたとき中国一辺倒になることは避けなければならない。また中国には「チャイナリスク」もあり、中国中心のアジアにしていくことは長期的な視野で見た場合アジア諸国にとって安心できない部分もある。

中国一強状態になれば中国は何をするかわからない、"隣国"との歴史を通してベトナムはそのことを認識ているのだろう。

 

中国の隣国が中国語を重視した場合、中華圏に吸収されるというリスクも存在し実際アジア諸国では華僑や漢民族の進出が問題になっている。

また領土問題を抱える国は多く、国民感情の問題も存在する。

そういう東南アジアのパワーバランス問題を認識したとき、日本語や日本との関係に活路を見出すというのは日越両国にとってもwin-winに近い関係がある。

アジア諸国が過剰に中国語を重視することは自発的に冊封体制に入ってしまうイメージにもなり、アジアにおいて中国語を採用することの意味は他の地域と異なる部分がある。

 

日本とベトナムというのはある意味対中問題において共通の課題を抱えていると言っていい。また日越ともに自分たちの長所と短所を補完し合う関係にあり、更に国民性が似ているというまさに日本人の視点で見たとき東南アジアのベストパートナーということができる。

日本としてもベトナムとしてもまず「中国一強状態」になることは避けたいと考えている。領土問題もあり昨今の中国による軍拡路線を筆頭とした拡大傾向に危機感を感じているのが両国である。

・日本としてはアジアにおけるトップから陥落して衰退していくことを避けたい。

・ベトナムとしては次にアジアで台頭する国は中国だけでなく自国も加わりたい。

日本は中国に取って代わられつつある国であり、ベトナムは中国だけに先に行かせたくない国だと考えることができる、つまり両国にとってのライバルは中国である。

アジアで生き残るには中国と折り合いをつけて生きるか、他のアジア同士で連携を探るしかない。

ベトナム

また日本は現状のアジアにおける経済大国や人口大国であり、ベトナムはこれから経済大国や人口大国になろうとしている国でもある。

ベトナムとしても今の日本の経済力を飛躍の材料にしたいと考えており、日本としても新しく飛躍する国のエネルギーにあやかりたい。

日本経済はもはや世界的に巨大な影響力を失いつつあるが依然として「円」の信頼性は高く、世界3位のGDPというのはまだ多くの国々からすると羨望の領域にある。

その一方で日本としてもベトナムの人口ピラミッドや経済成長率は魅力的に映る。ベトナムは既に1億に人口がさしかかろうとしている国でありなおかつ平均年齢も若く、非常に可能性にあふれた国である。

超少子高齢化の状態になり先行きの成長が見通せない日本が、衰退ではなくここから成長、あるいは現状を維持させることを望むのならば、もはや日本一国だけではどうにもならない状況にある。可能性のある国と持てる物を共有し合い、補完し合うことが必要になる。

 

アジアにおける三大国を列挙するならばGDPに基づいた場合現状は中国、日本、インドだろう。

すなわち中国語、日本語、そして英語がアジアでは重要な言語になる。

このうち英語は必須でありどの国でも取り入れられており、インドはエリート層にはほとんど英語で通用する。もはやイギリスを超えて世界屈指の英語大国になっているのがインドだ。

そして中国語は政治的な見地で考えたときリスクが無いとは言い切れない。

 

そう考えたときに「アジアの言語」として東南アジア諸国が日本語を重視するのは、一定のメリットが存在することは間違いない。現実的にアジアにおいて先進国と経済大国を両立してる国は日本しかない。

少なくともアジアで活動をする場合イタリア語、ドイツ語、スペイン語よりは日本語の方が実用性は高いだろう。

 

今後ベトナムがより本格的に日本語の教育を充実させ、それによって何らかの利益が発生した場合他の東南アジア諸国もこの傾向に続く可能性はある。

現状ベトナムが日本語を採用した背景は政治的な側面が大きいと言われているが、今後より実質的な教育が施されていったときに起こる変化によっては更に日本語熱が拡大するのではないか。

ここで日本語のライバルになり得るのが実は韓国語でもある。

日本と韓国は実は非常に似た立ち位置であり、現状経済大国でありながらも、発展を終えて衰退とどう立ち向かっていくかという状況にある。更に文化的な魅力を双方兼ね備えている。日本語ならばアニメや漫画、日本文化、そして韓国語ならば韓流だ。日本人が考えている以上に韓国政府は自国の文化輸出を重視しており実際それが成果を出している部分もある。

 

ただ経済規模は実は韓国経済は日本経済の3分の1程度であり、韓国経済自体もこれ以上大きな飛躍は期待できない。そして韓国の社会構造も日本の後を追うように既に少子高齢化の段階に差し掛かっている。

文化の面ではやや韓流がアジアでは攻勢気味にあるが、韓国のやり方は「好きな人も増えるが嫌いな人も同時に増える」というやり方に近く反発もある。

韓国はもう新興国と言える段階ではなく、ほぼ日本と同じような状況に差し掛かっておりアジア諸国がどちらを重視するかと考えたとき日本語の方がメリットはあるのではないか。

経済の面で見ればわざわざ韓国を選ぶ必要はなく、日本で事足りる部分があり、韓国の発展もこれ以上は見込めない。

現実的な視点で見た場合同じ東アジアの経済国ならば現状規模が大きい日本の方を重視したいという判断なのかもしれない。似たような特徴を持つ国であるがゆえにわざわざ韓国語を選ぶ理由がないのではないか。

この現象は日本人がわざわざドイツ語よりオランダ語を勉強しないのと似ているかもしれない。

 

こういった観点で見たとき、今後日本語はアジアにおいて重要性が高まるのではないか。少なくとも可能性はあるはずであり、今後「日本語」という言語の価値や実用性を高めようと思えば「アジアで役に立つ言語」「アジア人が覚えたら得する言語」というメリットを強調していく必要がある。

今まではアニメや漫画を好きな人が日本語を覚えたり、留学生が覚えたというケースが多かったが、今後アジアの現地でビジネス用語として覚えるというのがトレンドになっていくのではないか。

現に日本企業の多くがもう国内で活動することからアジアに拠点を移しているため、現地で日本語の需要が高まることはあるだろう。

これからは「日本語を覚えればアニメを字幕なしで見れる」という文化的な面よりも、「日本語を覚えれば現地でいい企業に就職できる」というような実用性を強調していくべきなのかもしれない。

 

そしてアジアの現地で日本語熱が高まれば「ネイティブな日本語を現地の人たちに教えられる人」という需要も高まる可能性がある。

日本語ができる日本人は当然ながら数多くいるが、日本語をアジア人向けにアジアに行ってわかりやすく教えることができる日本人となると限られてくる。また「英語と日本語を教えられる日本人」となると更に需要は高まる。

 

日本人としてはまさにこの状況はチャンスであり、日本語の重要性をもっと広報していく必要があるのではないだろうか。

せっかくベトナムのように日本語を重視し始めている国が登場してきているのだから、彼らの事をもっと重視しても良いのかもしれないしもっと重要性や実用性を強調してもいいのかもしれない。

せっかくアジアの国が日本語を重視しているこのトレンドを逃してしまえばもうその時はやってこないかもしれない。そして他の言語に取って代わられる可能性も否定できない。

「中国語以外の選択」として日本語のメリットをどうアピールしていくか、そして日本語ができることで現実的に得られるメリットをどう増やしていくかが重要になるだろう。

 

現に日本語の学習者は30年前の30倍に増えており、更に30万人もの日本語教師が海外で勤務しているようだ。

30年前と言えば日本経済がまだ世界トップクラスだった時期である。もちろん戦前の時代よりも更に多くなっているだろう。むしろ日本がアジアで唯一の近代国家だった時代より日本語をみんな勉強している。

戦前のアジアでは『阿Q正伝』で有名な魯迅のように日本に近代文明を学ぶために留学することがエリートのトレンドだった。

 

日本経済絶頂期や、アジアにおける近代文明の先駆者だった時期よりも日本語学習者が多いというのは興味深い現象だと言える。

日本人としても日本語の重要性やニーズが高まることは得であり、東南アジアの人々にとって日本語を覚えたほうが得だという状況を作ることはお互いのメリットになる。

これから発展していきたいと考えている国に力を貸し、そのエネルギーの恩恵を日本側も享受する、そんな共存関係を築いていきたい。

日本の衰退がしきりに囁かれる現代において、本格的にアジアとの関係に可能性を模索する必要がある時期に来ているのかもしれない。